おやつの時間だからとキッチンに入ったカイトがまず目にしたものは、冷蔵庫のまえに立ち尽くすがくぽの姿だった。

いや、立ち尽くすという表現では、なまぬるい。完全に、凝固していた。かたまりきっていた。

マネキンかくやだ。

そもそも感情を失って、ゆえに衝撃らしい衝撃もまともに受けず、日々をひたすら淡々たんたん坦々とこなしていくのががくぽだというのに、まさかこうなるまでの衝撃とは、いったいどれほどの。

とてもつごうよいぼくら

きょうのおやつはツイン・アイス

――と、キタイまんまんに煽っておいてだな、今日のおやつがアイスだったからっていう…がくぽおまえな、それな、ちょっと、正座させるぞひざ突きあわせて、つめるぞ今じゃなくて、そのうちだけど」

冷蔵庫のまえで慌てて話を聞いたカイトは、最終的に、片手で目を覆って天を仰いだ。あたまが痛い、だ。

つまり、その通りだったからだ。

いったいこの状態のがくぽが、こうまでの衝撃をどうして受けたのかといえば、がくぽとカイト、今日のふたりのおやつがアイスだったからという。

だからといってがくぽが、そこまでアイスが嫌いだという話ではない。あまいものは苦手なほうだが、ではアイスはといえば、こうとなるまでのものではない。

ただ、問題はやはり、『あまいものが苦手』というところだった。

あまり、あまいものが得意ではないがくぽは、おやつがあまいものであった場合、基本、カイトのおやつを食べる。

――いや、がくぽのおやつがあまいものであるなら、いっしょに用意されるカイトのおやつも、あまい。

差があるとしても、チョコレート・ケーキとチーズ・ケーキといった程度だ。チョコレート・ケーキと塩おかきというほどのものは、ない。

それであってもがくぽは、カイトのために用意されたおやつをこそ、食べる。

カイトのほうがおいしそうだから、と理由を説くが、これは要するに、がくぽのカイトに対する執着のつよさ、依存の度合いを示してもいた。

『苦手なものであっても、【カイトのもの】であればきっと、ぜったい、おいしい』

――という、ヘリクツにすら届かない、迷子のロジック。

とにもかくにも、時間きっかりにおやつに入るがくぽは、自分時間でルーズるずると、あとからおやつに来るカイトへ断ることもせず、かれのおやつを食べてしまっていた。

のが、悪しき慣習として、改善のきっかけを待っているさなかだったのだが。

今日のおやつは、アイスだった。

あまいものだ。

あまいものだが、アイスだ。

がくぽのつれは、KAITOだ。

アイス狂いの。

「でも、よかったよ、がくぽ。おまえちゃんと、いのち惜しみするんだな。すごい、安心した」

ほんとうに良かったのかどうか、ほんとうに良かったことはなんであるのか、これで安心していいのか――

ブラックボックスをとても軽いようすで急拡大させながら、カイトは冷凍庫を開くため、腰をかがめた。

「まあ、そこまでして、どうしてもおれのじゃないとヤだっていう、そこのこだわりはやっぱり、ナゾなんだけどな」

KAITOは鷹揚だ。にぶいともいう。ヴァージョン・アップを重ねていても、あれこれスペックの不足していた旧型ロイドであることに変わりはなく、こまかな機微を読むことをすぐ投げる。悪気もなく、他意もなく、ただ当然のこととして。

隠されもしないがくぽの執着と依存を、なきものとしてスルーする程度、あさめしまえというもの。

今もまた、華麗にするりとスルーしてみせたカイトは、開いた冷凍庫のなかをざっと見回し、目的のアイスをすぐに見つけて取りだした。

アイスの袋をぴりぺりびりっと破いて取り去ると、二本の棒をつかんでアイスを割る。もとからそう指向してつくられたアイスは、わずかな差はあれ、だいたい、半分に分かれた。

カイトはその、若干、いびつなはんぶんこのうち、なんとなし、大きなほうのアイスをぱくりと咥えると、片割れ、比較的、ちいさいほうのアイスをがくぽへ差しだした。

「ふぉい」

「…」

がくぽは微動だにしない――口から単語どころか、ことばになるまえの声がこぼれることすらなく、じっと、ただじっと、カイトが差しだしたアイスの片割れを見ている。

「おまえのぶんだよ、がくぽ。今日は、おれのかってに食べるのガマンして、えらかったからな。ごほうび。おれのおやつやる、っていうか、はんぶんこだけど。でも、………うん、なおれと、はんぶんこ。なんだから、これも、『おれの』だろ?」

咥えていたアイスを口から離し、やわらかに微笑んで説いたカイトへ、がくぽはようやく、動いた。アイスを凝視していた顔を上げ、カイトをますぐに見る。そこに感情は浮かんでいないが、なぜか漲る闘志が感じられた。

「カイト、がくぽはカイトからのご褒美であるなら、いつもどおりキ」

「がくぽ」

――カイトの笑みはやわらかだった。先と変わることなく、やわらかに、やさしかった。

ただし、声は低かった。

「『アイス』。とける」

「……アリガトウゴザイマスイタダキマス」

ふだんから、感情が刷かれないがくぽの話し方には、抑揚がない。それをさらに加速させ、もはや博物館級の機械音声と化して、がくぽはカイトに応えた。さっと手も伸びて、カイトの手からアイスをとる。

その勢いまま、ぱくりさくさくさくと、アイスに貪りついた。

もったいないと思いながらも指摘は控え、カイトもまた、自分のアイスに口をつけた。

「ごほうびとはいえ、KAITOがアイスやるっていってんのにさ、それ以上にほしいとか、それ以外がいいとか、がくぽ、おまえ、そーいうの、ヨクが深いとか、ゴーヨクとかって、いうんだぞ」

はくはくはくと自分のぶんを片づけつつ、カイトはぼやく。

ぼやきながらもアイスを食べ進めるカイトの、揺らぐ湖面の瞳が揺らぐように、ちらりと刹那、がくぽを見た。

「しょーじき、おまえの、そーいうとこ――おれ、キライじゃない」

――ダイニングに戻って食卓につくこともなく、キッチン、冷蔵庫のまえ、並んで立ち尽くし、アイスを貪るロイドが、ふたり。

わけあったアイスは、互いにあと、ひと口ぶん。