「あー…。――そういうことも、あったなあ」
ベッドに転がるカイトがこぼした声には、ことばほど、なつかしさが含まれているわけではなかった。
どちらかといえば、呆れ。
どちらかといえば、諦念。
とてもつごうのよいぼくらは、
頑是ないうたをうたわない。
壁につけたベッドの、床側を向いて横に転がるカイトのうしろには、がくぽが同じく、壁に背をつけるかたちで横になっている。
ベッドはシングル、『そういうこともあった』ときから変わらず、シングル・サイズの二段ベッドだ。
がくぽとカイト、成人体格の男、ふたりだ。そうやってふたりして横を向き、接地面積を極限までほそく、削って、ようやく並んで転がれる。
いや、どうしてそこまでして、並んで転がらなければならないのか。
それも、もはや夜で、寝る刻限である、今。
部屋の照明はとうに落とされて、ふたりはただベッドに転がっているわけではなく、そのからだにはきちんと、布団をかけている。
寝る準備、万端で。
きつきつ、きゅうきゅうに、シングル・ベッドに詰めこむからだ、ふたつ。
くり返すが、『そういうこともあった』ときから変わらず、ベッドは二段だ。ふたりのすぐうえ、座ってもあたまをかがめなければいけないような高さに、上段のベッドは設置されている。
ただベッドの骨組みがあるだけではなく、布団もまくらも、寝具はすべてそろっている。シーツもカヴァもこまめに洗濯に出され、あるいは日干し陰干しも満遍なく為され、ベッド・メイキングも行われ、――
しかし、無人。
「そういうことも、あって………それで、今?か?うん」
転がったままでも、カイトは器用に首を傾げた。目が遠い。暗闇を透かし見ようとすると、そうなる。もちろん、カイトの目つきがそれに似ているというだけの話で、理由は違う。
布団のうちで片手を上げ、カイトは自分の腹に回されたがくぽの手を、ぽんぽん、叩いた。軽く、あやすにも似た。やわらかで、やさしく、――
すがるようでもあったがくぽの指がゆわりと浮き、手がひろがって、同時に、腹にかかる腕の重みが増す。
「くぷ」
すぐ、耳元で聞こえた音に、カイトはちからを抜ききって、あたまをまくらに沈みこませた。
「思えば、とおく、来た………」
まぶたが、自然、とろりと落ちる。とろりと落ちて、つぶやくくちびるも、とろりと。
「…………………わけでも、ない。な…」
つぶやきは闇に融け、あとに残るのは、静寂。