夢繚乱噺-09-

寝転んだまま、がくぽは器用にカイトの帯を解いた。ここらへんの手管は、慣れたものだ。

帯を解くと幾重にも重ねられた着物もはらりと肌蹴られて、やわらかに体を覆うだけになる。

その状態で、がくぽはカイトを自分の腰の上に座らせた。

「がくぽ、さま……」

「たまにはこういう眺めも良いだろう?」

「ぁ………」

カイトは尻をもぞつかせる。しらっと言うがくぽが押しつける下半身が、熱と硬さを伴って、存在を主張している。

「ん………」

「煽り方が上手いな」

「そんな………」

擦りつけるように動く尻に、がくぽは笑う。カイトは頬を染めて、瞳を潤ませた。

「だって………」

「おっはーん、おにぃちゃんっボクちょっとお願いがあるんだけど!!」

「んくっ」

障子を開け放しているから、誰でも彼でも入りたい放題だ。無遠慮に入って来た声に、カイトはびくりと震えた。

とはいえ、たとえ閉まっていたとしても、己の思考に没頭する妹が遠慮するとは、微塵も思わないが。

動作としてはどすどすと荒っぽく、しかし実際にはまったく音をさせずに入って来たミクに、がくぽは軽く眉をひそめて、身を起こした。

「なにがお早うだ、逆転娘め。もう午を過ぎたわ。そうも夜更かしばかりすると、肌の荒れるのが早いぞ」

「年頃のおにゃのこが言われたくないことを遠慮もなく指摘するとは、この鬼畜、印胤家っ」

「どちらも否定せんぞ」

「ぁっ、んんっ」

身を起こしたがくぽは、カイトの尻をわざわざ自分のものの上に来るように置く。間に幾重にも布があるから入っては来ないが、確かに刺激されて、カイトは震えて仰け反った。

「まあボクも、否定しようがないことを言ったんだけどさ」

しらりと言い、ミクは乱れた着物の兄の傍に座った。

「あのさ、おにぃちゃん。おうちから離縁しといてなんだけど、ちょっと手伝って欲しいんだよ。ボクどうしても、手が離せない用事が出来ちゃって、一度里に戻らないとでさ」

「ん………っ」

カイトはふるりと頭を振り、潤む瞳で妹を見た。こちらを見ているようで、どこかあさってなところに意識を飛ばしている妹を。

ルカが絡むと、いつでもそうだ。ミクの視野は、一挙に狭まる。

カイトは震える手を伸ばして、がくぽの首に回した。乱れる着物の内側に招くように、頭を抱き寄せる。

がくぽの腕もカイトの背中に回り、逃げられないようにと体が抱えこまれた。

「…………手伝う、のは、いい、よ…………ミクの、お願い、だし…………そ、れに……離縁したって、いっても、ミクも、ルカちゃんも、……俺の、いもうと、だもん…………」

「………ぇへ」

兄の言葉に、ミクは無邪気な笑みを浮かべた。まるで幼子のように、うれしそうに笑う。

カイトも微笑み返し、それからびくりと引きつった。

抱えたがくぽが、舌を伸ばして胸に吸い付いたのだ。ざらりと舐め上げられてから、すでに尖っている先端をこねくり回されて、全身に痺れが走る。

「ぁ………ぁ、ゃ…………ふぁ、ん…………っ」

がくぽの頭を抱える手に力が篭もり、肌に爪を立てる。浮いた腰は、がくぽの手によって再び下半身に落とされた。

「んん………っ」

呻いてから、カイトは潤む瞳を瞬かせて涙を払い、笑うミクを見た。

「……………だい、じょうぶ………なの?」

なにが、と限定せずに訊いたカイトに、ミクは肩を竦めた。

「大丈夫じゃないよ。久しぶりなんで愉しくって、ちょっと追い詰め過ぎちゃった。かなり自棄起こしてる」

「…………ミク……………」

「テヘ☆」

愁眉になる兄に、ミクは最高に愛らしく笑った。最高に愛らしいが、反省や後悔とはまったく無縁だ。

「だって仕様がないじゃんこれでもボク、怒ってるんだよルカちゃんったら、勝手に里から出て、お商売なんか始めちゃってさ」

「ぁ、だめ、がくぽさま………っ」

着物の内側に回ったがくぽの手が、カイトの秘所を探り始めた。カイトは慌てて腰を浮かせて逃げようとするが、かえって逆効果で、がくぽの手はこれ幸いと下着を取り外して、窄まりを撫で始める。

「ぁ…………っ」

「誰が、ボクの傍から離れていいって言ったのさ。誰が、ボク以外のひとに体を赦していいなんて言ったのさ。誰が………っ」

言って、ミクはくちびるを噛んだ。その瞳の中に、紛れもない怒りがある。狂うように激しく、相手を焼き殺さずには済まない怒りが。

「ボクのルカちゃんだぞ。ボクの………なのに、勝手に里から出て行って、勝手にお商売なんか始めて…………ボクはそんなの、ひとっことも赦すなんて、言ってない。言ってないのに…………っ」

「ゃ、ぁ…………んんっ………っ」

がくぽは指では窄まりを撫でながら、口で胸をこねくり回す。

カイトはきつく瞳を閉じて、頭を振った。思考が霞む。触れられないでも勃ち上がりつつあるものが、じんじんと痺れて痛いようだ。

「あ、のね、ミク…………っ」

上がる嬌声を堪えて、カイトは懸命に言葉を紡いだ。

「俺、なんでも、手伝う……よミクの、ため、だから………」

「うん」

頷く妹の瞳は、どこか遠いところを彷徨っている。

カイトはがくぽの頭をきつく抱きしめて縋りつき、洟を啜った。

「けど、その、話………今じゃ、ないと、だめ………っあとでじゃ、だめ………かな………っ?」

「え?」

「ぁあっ、…くぽ、さまっ」

つぷりと入って来た指に、カイトは堪えきれない声を上げる。

「………ありゃ?」

そうやって意識を導かれてようやく、ミクは瞳を丸くした。

あからさまに妖しい恰好となっている兄を見て、それから瞳を丸くしたまま、外へと目をやる。

まだ明るい。

日は燦々と照って、しばらくは沈まないだろう。

「ぁ、も…………っ、くぽ、さまぁ………っ」

「……………あっちゃー……………」

ただ夫の膝に乗っているだけでなく、着物を乱して腰を揺らめかせる兄に、ミクはぺしりと額を叩いた。

真っ昼間だ。

真っ昼間から、なにをしている状態だ。

だがこれが常態と化していればこそ、印胤家の若当主は、およめさまに凄まじく耽溺していると噂されるのだ。

「んく………っ」

突き上げる快楽を飲みこみ、カイトは涙目でうるるんと妹を見る。

「あ、のね…………まだ、いっかいめ、してないの…………」

「がはぁっっ!!」

通常運転を取り戻したミクの口から、魂と汁が飛び出る。

なんの告白だ。なにを告白してくれているのだ、この兄。それもそんな、欲に潤んだ顔で。

「てらもえすてらもえすてらもえすてらもえすてらもえs」

高速で隠語をつぶやき、ミクは魂を口の中に押しこみ直す。狂恋に気を取られていても、それはそれ。兄は兄。

カイトのほうは、懸命にがくぽに縋りつき、ぐすりと洟を啜る。

「だから、ね…………ぁ、から、だ…………疼いて………がまん…………できな…………んんっ」

「なんたる良調教っっ」

そもそもは貞淑な性質だった兄だ。それが言うに事欠いて、疼いて我慢出来ないとまで。

そうまで体を仕込んだのはもちろんがくぽだろうが、そこに辿り着く過程を考えると。

「くはぁっっ」

戻した魂が再び飛び出した。ミクは畳に倒れ込んで平伏状態となり、ぴくぴくと痙攣をくり返す。

そのミクに構う余裕はなく、カイトは首を振って霞む頭を晴らし、言葉を続けた。

「だから………待てる、ん、だったら………いっかいめ、終わるの、待って…………」

「し………っ」

俯せたまま、ミクはぶるぶると震える。がばりと体を起こし、叫んだ。

「死ぬわぁああああああああ!!!萌え殺す気かおにぃちゃんっっっ!!ボクを萌え殺してどうする気だぁああああああ!!!」

「ふぁっ」

指が二本に増えて、カイトは仰け反る。

カイトの胸から顔を上げたがくぽは、頭を掻き毟るミクを鬱陶しそうに見た。

「死にたいなら死ねばよいが、そなた、カイトになにか、危険なことをさせるつもりではあるまいな。その気なら、ここで抱き潰して、しばらく使い物にならなくするぞ」

「ぁんっっ」

「だだだ、だきつぶ……おにぃちゃんがだきつぶ…………この淫種家っ、いいぞもっとやr」

「では抱き潰しておくか」

「待てぇいっ、この淫種当主っっ」

思うに、がくぽが抱き潰すと言ったら、本気で抱き潰される。二、三日、床から離れられない状態になってもおかしくない。

そんなぐったり兄も猛烈に見たいが、今は今で危急の用事がある。

「そなたな、わからぬと思って、不穏な当て字をしておらぬか」

「否定出来るものならしてみろ、淫種家」

「抱き潰すぞ?」

「ひ、ぁあっ」

「お待ちください、御当主さま」

穏やかに微笑んだがくぽに、ミクは平伏した。立場が弱いのは、今回の場合こちらだ。

「………とりあえず、それほど危険じゃないよ」

「それほど?」

やさしい微笑みで訊き返すがくぽに、ミクはきょろりと瞳を回してから、肩を竦めた。

「だってルカちゃんって、どうこうしたいのボクだけだし。おにぃちゃんには『おにぃちゃん』以上の興味ないから、まったく危険じゃない」

「誤魔化したな」

「んんっっ」

吐き捨ててから、がくぽはにんまりと笑った。

「だが良い。とりあえずは見逃してやる。見逃してやるゆえ………」

「ああうん、二戦でも三戦でも、お好きにどうぞ。でも今日のうちに話聞いてね?」

「気が向いたらな」

「向けろ。まじやばなんだっつの。ボク本気ですぐに、里に帰んないといけないんだってば」

「気が向くようにするのも戦術というものだ」

「孫子は滅びろ」

吐き捨て、ミクは立ち上がった。

印胤家若当主もおよめさまに耽溺しているが、およめさまも夫に耽溺している。

人前ですることを猛烈にいやがるはずの兄が、どうして噂になるほど人前で弄り回されているのかと疑問だったが、その謎が解けた。

一回目が済んでいないと、正気がすっ飛んで人目を気にしなくなるらしい。

そこまで仕込まれちゃった兄。

それはそれで新たなる萌えだ、と心に書きつけ、ミクは背中を向ける。

「ぁ、がくぽさま、も、ぃれてね、ぉねが………」

「堪えのない。もう少し遊ばせろ」

「ゃ、言うこと、きいてください…………ごほうび、でしょごほうび、なん、だから………俺の、言うこと、きいて?」

「そういえばそうだったか…………仕方ないな」

「カイトに、ちゃんとごほうび、ください………っ」

膝が崩れかけて、ミクは生まれたての仔鹿のようによろめきながら、部屋を後にした。

とりあえず、グミを探すことにする。

戦術も戦略も、下手に転がすよりあの少女だ。

この始終耽溺しているめおとを日常的に世話している彼女に頼ることが、この場合、最良の策だ。

「ふ、ぁあっ、がくぽ、さまぁっ、ふかぃい………っ」

「どうだきつかろうが」

「んぁ、くぽ、さま、のっ、ふとく、て……かた、くて…………あっつぃ………っ」

「好きだろう?」

「ん、はぃ、すき…………すき………っ」

「っくっっ」

障子を閉めて来ればよかったと後悔しつつ、ミクは魂が落ちては拾いをくり返して、グミのにおいを辿った。