のり↑のり↓-02-
妹が離れて自由になった体が素早く寄り、慌てるあまりに動作が覚束ないカイトの腰を抱きこむ。
「ちょ、ちょっと……?!」
「貴様は俺の嫁だ」
「待って、なに………んんっっ」
至近距離で宣言されたかと思うと、反論の言葉を紡ぐより先にくちびるを塞がれる。腰を抱いてから、くちびるを奪うまでの動きは、あまりに手慣れている。
軽く塞いで一度離れたくちびるが、抵抗を紡ごうと開いたくちびるへ舌を伸ばす。
「んん……っ!!」
押しこんで来る濡れた感触に、カイトはぶるりと震えた。抵抗しようとしていた手が、思わずがくぽに縋りつく。
「ぁ、んん……っ」
逃げる舌をがくぽは容赦なく追い、口の中を好き勝手に漁っていく。カイトが飲みこめずにこぼれる唾液もがくぽが啜り、べろりと肌を舐めた。
「ゃ……っ」
「不慣れだな」
震えるだけのカイトに、がくぽは笑う。
「もしや、初めてか?」
「…っ」
訊かれて、カイトはさっと紅く染まり上がった。潤んでいた瞳が、さらに潤む。
離れようと胸を押す手に構わず、がくぽはカイトをきつく抱えこんだ。
「良いことだろう。初物など面倒なだけだが、嫁なら話は別だ。生涯俺の手だけ知っていればいい」
「よ、嫁じゃ、ない………!」
どろりと蕩けた甘い声でささやかれる勝手な言葉に、カイトは震える声で反論する。
今日、さっき、初めて会ったばかりの相手だ。見た目はきれいだけれど、性格は尊大で、そして男だ。カイトと同じ。
それがなにをどうして、こういう状態になったのか。
「なんで、いきなり………!おまえ、俺の性別、わかってないの……?!」
「男だろう。確かに俺も、男に催したのは初めてだな」
「…っ」
さらりと言われ、カイトは咄嗟に俯いた。その頬を撫でて、がくぽは軽く口づける。
「言っただろう。貴様は嫁として合格だと。見た目といい、性格といい、思考といい、すべて合格だ。女でも、こうまで完璧だったのはいない。なにより、グミが懐いた」
「っそうだよっ!」
はっとして、カイトは顔を上げる。熱っぽい眼差しをまともに見てしまい、一瞬、頭が眩みかけた。
カイトの反応は筒抜けだ。がくぽが笑うのに、カイトは懸命に瞳を尖らせた。
「妹思いもいいけど、これはやり過ぎだろ?!別に俺、グミちゃんのことかわいいから、妹みたいに扱ってくれって言われたら、いやだなんて言わないし!」
「なんだ?」
眉をひそめてカイトの言葉を反芻し、がくぽは鼻に皺を寄せてくちびるを歪めた。
「…………つまり俺が、グミに新しいきょうだいを与えたいがためだけに、貴様を抱こうとしていると?」
「だ……く気なんだ、やっぱりっっ?!」
告げられた言葉の衝撃は、思った以上だった。
逃げなければいけない場面だが、カイトはびしりと固まってしまう。
そのカイトを抱いたがくぽは、不機嫌に鼻を鳴らした。
「確かにあれはかわいい妹だが、そのために男を抱こうとまでは思わん。あれに気に入られることは嫁にする条件のひとつだが、すべてではない。言っているだろう、貴様は合格だと。ほら……」
「ひっ!」
下半身を押しつけられ、カイトは竦み上がる。
ごりりと、固いものが当たった。
さすがにいくらなんでも、「なにこれ?」とはならない。その意味くらい、わかる――が、出来ればわからないまま、「なにこれ?」と言いたかった。
「ゃ、うそ……っ」
「マスターになどは節操なしと言われるが、俺は自制があるほうだ。しかも男相手だろう………キス程度でこうまでなるほど、餓鬼ではないぞ」
「ゃ、や……っゃだ………っ」
腰を抱かれたまま、固くなったものを擦りつけられる。カイトは首を振り、がくぽに縋りついた。
「ゃ………っ」
「甘い声だ」
拒絶の言葉に、がくぽは笑う。
「強請り声にしか、聞こえない」
「ぁ……っ」
カイトの足が力を失って、崩れる。
がくぽは軽く支えたまま、ダイニングの床にカイトを横たえた。
「俺に抱かれたいだろう?」
マフラーを解き、コートを肌蹴ながら、がくぽが笑う。カイトはぶるぶると首を振った。
「だ、だかれたくない………っ」
言いながらも、抵抗する手に力がない。
体が痺れて、まるで言うことを聞かないのだ。とろりと蕩けてしまって、ともするとがくぽに縋りついてしまう。
がくぽは笑って、シャツの中に手を潜りこませた。
「怯えるな。男は初めてだが、気持ちよくしてやる。なにしろ嫁だからな。これから先、ずっとかわいがってやるのに、最初に恐い思いをさせては後々面倒だ」
「嫁じゃないったら……!も、話通じない………!!」
悲鳴を上げるカイトの声が、甘く掠れる。
がくぽは晒した首に咬みつき、吸った。シャツがたくし上げられ、反り返る胸を指が弄ぶ。
「ゃめて……っゃ、なんで………っ」
「止められたいか?本気で?」
つぶやいたがくぽが、身を乗り出す。潤むカイトの瞳をまっすぐと覗きこみ、見据えた。
「俺の目を見て、言ってみろ。止めろと。おまえに抱かれるのは虫唾が走ると。いくらどうでも、そこまで言われれば俺も手を引く」
「……っ」
カイトは瞳を見開いて、がくぽを見つめる。
真摯な瞳だ。言っていることは俺様で、やっていることは強引極まりないのに。
透徹として美麗な顔が、カイトを見下ろしている。欲を隠しもせず、触らせろと強請りながら。
強い光を宿す瞳を見つめたまま、カイトはくちびるを戦慄かせた。
「ぁ………っ」
「カイト」
吹きこまれる、蕩けた声。
カイトは瞳を瞬かせ、ほろりとひとしずく、涙をこぼした。
「こわ……い…………」
「…」
掠れて吐き出された言葉に、がくぽがわずかに考える。カイトは懸命に、そんな相手を見つめた。
ややしてがくぽは、こくりと頷く。
「まあ、初めてだしな。怖いのは仕様がない。耐えろ。すぐに悦くしてやる」
「ちょっと待って………!!手、手ぇ繋ぐのから………とか!!」
「ああ?」
上擦ったカイトの提案に、がくぽは思いきり胡乱な顔になる。カイトはがくぽの着物に縋り、引っ張った。
「だって、初めて会ったんだよ?!ついさっき!!なのに、いきなりこんな………!!もっと、ゆっくり………」
「……つまり、口説けと」
「……っ」
呆れたようにつぶやかれ、カイトは真っ赤になる。そう言われるとアレだが、つまりそういうことだ。
一目惚れがないとは言わないが、それにしてもこの手の早さは追いつけない。もっと手順を踏んで、段階を経てくれないと、カイトはひたすら混乱してしまう。
縋る瞳のカイトに、がくぽは鼻を鳴らした。
「しながら口説いてやる。いいからとりあえず、抱かれろ」
「なんでそう、無駄に男前!!」
悲鳴を上げたカイトに、がくぽは下半身を押しつける。相変わらず、固い。
「こうまで張りつめれば、他事など考えられなくなるのくらい、わかるだろうが。それとも、それもわからないほどにねんねか、貴様。それはそれでやりがいというものがあるが……」
「トイレで抜いてきて!!」
「嫁が転がってるのに、どうして厠になぞ行くか!」
「嫁じゃない!!あと転がってるんじゃなくて、転がされたの!!」
いちいち反論するカイトに、がくぽはきつく舌を鳴らした。
渋面を近づけると、潤む瞳のカイトをきりっと睨みつける。
「貴様は俺の嫁だ。俺がそう決めた。――そもそも貴様、俺のことが好きだろうが」
「っんな………っっにを、根拠に?!」
引きつったカイトに、がくぽはさらに顔を寄せる。下半身が、ごりごりと押しつけられた。
「ん………っひ………っ」
「その声だ。そうまで甘い声を出しておいて、嫌だも糞もあるか。出会った当初からこっち、潤んだ目で見つめてきて……………強請られているとしか思えん」
「ゃ……っ」
言葉にならないカイトは、首を振る。そのカイトの下半身に、がくぽは手を伸ばした。ぐ、と探る。
「ぁ……っ」
「………見ろ。押し倒されただけで、こうなっている。抱かれたいんだろうが。七面倒くさいことを考えずに、おとなしく抱かれろ。しあわせな嫁にしてやる」
「ゃあ………」
がくぽほどではないが、熱を帯びて固くなった性器を探られ、カイトは瞳を閉じる。
困ったことに、伸し掛かる重みが心地いい。
ぎゅっと抱きしめてくれれば、確かに『しあわせな嫁』だ。
抱きしめるだけで終われば。
「………はや、はやい………おねが、考えさせて………ちょっと、時間………」
「一発抜いたらな」
「ゃだぁあ………っ」
さっぱり話が通じない。
ぐすりと洟を啜るカイトの肌を、がくぽは撫で回す。
「ん……っぁ、あぅ………っ」
「そうやって素直に啼いていろ。貴様も気持ちよく抜かせてやるから」
「ゃ………っ」
「『や』じゃない。『いい』だ。そうでないならあんあん言ってろ」
「いわないぃ…………っぁんっ」
拒絶した途端に口が裏切って、『あんあん』言ってしまった。
真っ赤になって動揺し、抵抗も出来なくなったカイトに、がくぽは満足そうにくちびるを歪めて顔を落とす。
本格的に『嫁を口説く』体勢に入ろうとした、その時だった。
「おおー。未那ちゃんが作ったやつか、これ?」