さて、満足度も中毒度も廃人度もバツグン☆☆☆な名無星カイト製オーダーメイドココアを飲んだ際の、明夜星カイトのアレと言えば、アレだ。

定例で恒例と化し、あまりにも『困る』事態がため、今や恋敵同士であったはずのおとうとどもが共闘までして止めに入るようになった――

よりく、-日記版

いい忌み』の定義といい石の選び方

「っっ!」

「ちょっとやめて、俺を見るとかあんたね、その場合小ネタ集2023年11月13日分の場合である)俺は被害者だからね?!被害者が俺なのだから俺が被害に遭う前になんか言ってって、言ってるんでしょう!!」

同じことを二度、くり返して言うのは大事なことだからである。三度言えばそれは、真実ということだ。

この一連のうちに立て続けて三度も『被害者=俺』をくり返した明夜星がくぽの言うことはだから、真実ということだ。

被害者は俺、もとい明夜星がくぽなんである。

これに関して実は、名無星がくぽにも異論はなかった。

繊細さが過ぎて恋でバランスを崩し、マスターにすら牙を剥くようになるという【がくぽ】ではあったが、名無星がくぽはこの点に関しては明夜星がくぽに深い信を置いていた。それはもう、トラウマレベルでだ(この詳細は本編第22話にある)

だからまあ、兄の指摘でようやく問題点に思い至った名無星がくぽが明夜星がくぽを見たのは、敵認識によるものではない。

目つきの鋭さは生来のものであり、かつそれが、チートにチートを重ねる兄との日々の暮らしで切磋琢磨されてしまっているから誤解も招くが、どちらかというと今のは救援要請である。

自分ひとりでどうにかできるわけがないのだから、被害者となる前におまえも加勢しろという。

「ええと、がくぽがくぽなに、どう…」

間に挟まれた明夜星カイトがおろおろと、恋人とおとうとを見比べる。どうやら自分がなにかやらかすらしいことについて争議しているようだとまでは察したものの、具体的になにが問題となっているのかがわからない。

これは一面、仕方がない。明夜星カイトの『加害』は未遂であり、未だ来たらぬ先の可能性でしかない。

これまでのところ彼はあくまでも『一服盛られ』る被害者であり、いわば酩酊状態の記憶はそう定かであるとは言い難かった。

明夜星カイトに残っているもっとも鮮明な記憶は、『とっっってもおいしーココア』までなのである。

で、さて、これまでのところ明夜星カイトに一服盛るもとい、罪なまでにおいしいココアを供し続けている名無星カイトである。

まさか未だ被害者でしかない明夜星カイトに内情を悟られるわけにもいかないと、ばちばちばちと目でやり合っている生意気な過保護どもこと、おとうとどもを見やり、その間でおろつくばかりの明夜星カイトを見て、ふむと首を傾げた。

口元に手を当て、少し眉をひそめる。

「そうかそれは………うんなんだか嫌な気がするな、俺が

「カイトさん?」

目でばちばちやり合うことに忙しかったおとうとどもは、このとき、少し反応が遅れた。なにしろ名無星カイトの声はひとりごとであり、相応に小さかった。

明夜星カイトが拾ったのはただ、このおとうとたちをどうにかできるのはカイトさんだという信頼があって、ちらちらちらちらと反応を窺っていたからである。

それで、思わしげにつぶやいた名無星カイトへ、明夜星カイトは即座に反応した。背を撓め、窺うようにことさら下から覗きこむ。

その明夜星カイトを見下ろし(なぜなら明夜星カイトが下から覗きこんでいるのだ。見下ろすしかない)、名無星カイトは改めて頷いた。

「明夜星カイト……せめて俺が考えごとをしているときは、そういうあざとかわいい系のしぐさは止めようなおまえもKAITOならわかるだろ。考えごとしてるときって、動きの制御が疎かなんだ。うっかりおまえのこと襲うだろ。でもな、俺にだって通したい筋ってもんが」

本編第47話を参照されよ。

この懇々とした名無星カイトのお説教だが、目をばちばちさせていたおとうとたちにより、ここで、中途で遮られた。より具体的に言うなら、名無星がくぽが『あざとかわいい』しぐさをしてしまった自分の恋人を抱きこみ、明夜星がくぽが懇々と言い聞かせていた名無星カイトを抱きこんで引き離した。

もちろん、抱きこむだけで済む問題ではない。

「あんたってひとはっ!」

抱えこんだ、その耳元できゃんきゃん喚くこいぬに、名無星カイトは無碍に喚かれる耳を塞ぎつつ、言い返した。

「俺だって筋を通そうとは思ってるがな、おまえの兄があんまりかわいいから!」

「それは僕の兄さんなんだから、筋なんか何本束ねたってへし折るくらいかわいいに決まってる!!筋どころか、百年大木だって兄さんのかわいさの前にはへし折れるんだから、そんなの自然の摂理ってもんで仕方ないでしょう!」

――論点がとても不明である。なぜか。

いや、なぜかなど、訊くまでもないというものではないか。

「ちょ、がく…かいとさ………ぇうぅっ、がくぽ…っ」

テンポが速いという以上のなにかでまったく道行きが不明な議論を戦わせている憧れのひとと溺愛するおとうとに、明夜星カイトは抱えこむ恋人にめそべそと縋った。

なんだかんだあれ、頼りになる恋人だ。自覚がどうあれ、その兄からの評がどうであれ、明夜星カイトは胸を張って言う。

彼は頼りがいのある、実に誇らしい恋人であると。

そういった、全幅の信頼を寄せられている恋人のほうである。名無星がくぽである。これで応えなければ男が廃るというものである。

名無星がくぽは応えた。最愛の相手が寄せてくれた全幅の信頼に。

「ぁあ、ぅん………言うだろう、カイトつまり、アレだ……犬も食わずねこもまたいでいく………なんと言ったか、アレだ。アレ………うむ。うつるとまずいゆえ、あまり見ないようにしような」

「へぅ?」

なんだかもごもご言いながら、名無星がくぽは明夜星カイトを抱えたままくるんとターンした。きれいに回って、兄と義弟に背を向ける。

自らの意にまったくない動きをさせられても、カイトに痛みはなかった。さすが【がくぽ】というべきか、まったくもって、こういったところでは決して想いびとに負担をかけるようなことはしない。

それで、急にただ視界が変わったとだけ認識した明夜星カイトである。その顎を支えてそっと目を合わせ、名無星がくぽは揺らぐ湖面へ飛び込むように微笑みかけた。

「でな、それはそれとして、ココアなのだが、カイト………こうしようその、俺とふたりっきりのときにだけ、つくることに………いや、他意はない。他意はないが、うむ、そうだ。そう、俺は普段、日常的に兄に、ココアをつくってもらっておるだろうゆえにな、おまえのつくり方のなにが違うのか、もしやしたら、見ていればわかるやもしれん。わからないやもしれんが、わかるとは決して言いきれないが…」

この、なにかを誤魔化して誑かす気満々の恋人の言いにである。

しかして明夜星カイトの表情は輝いた。きっらんぴっかんに光り輝いた。それは幻だ。比喩表現というものである。現実の現象では決してない。

が、名無星がくぽは眩さのあまりに痛みを感じ、目を細めた。

その恋人へ、頼りになるばかりでなくとてもとてもやさしく賢い男へ、明夜星カイトは満面の笑みでもってきゅううっと抱きついた。

「ありがと、がくぽっがくぽが手伝ってくれたら、ひゃくりんりきだもっだいすきっっ!」

「ああ………」

きゅううっと抱きつく恋人をやわらかに抱き返し、名無星がくぽはその肩に顔を埋めた。

丸めこんだ、罪悪感はある。

けれどそれ以上に胸を満たすものがあり、ならばこそ、自らの言葉をこの場しのぎでなく現実と成そうという気概も湧く。

湧く気概とともに抱き返す腕にもやわらか以上の力が入っていく――

「なんだか丸く収まりそうだけど」

「そうだな」

今日も今日とて、名無星カイトは背後霊に疲れて→違う、憑かれていた。背後からがっしり組みつかれて、生半な力ではとてもではないが振りほどけない。

振りほどけないどころか、背後を振り返るのすらままならないが。

「……ずいぶん、機嫌がいいな?」

ままならないながらも可能な限り身を捩ってこぼした名無星カイトの眼前に、『ずいぶん機嫌がいい』明夜星がくぽの満面の笑みが突きつけられた。

自らも背後から首を伸ばし、揺らぐ湖面の瞳と目を合わせた明夜星がくぽは、その満面の笑みで、ぎょっと固まった相手へ告げた。

「だってあんた、『なんか嫌』なんでしょうほかならぬ、あんたこそが………兄さんが僕に、なんかするの」