部屋の掃除に風呂掃除、洗濯に布団干し、食器洗い――
「ふぁっ、終わった!!」
満足いくまできれいにして、カイトはリビングの床にぱったりと倒れた。
横になった状態で、疲れ切った体をぐぐぐ、と伸ばす。
「あー………疲れたぁ………」
Walk Alone
狭い家だ。1LDK。
そこにマスターとカイト、そしてがくぽとがくの、成人した男四人を詰め込んでいる。正直、スペースとしては限界だ。
毎日まいにちきれいにしても、必ずなにかしら、どこかが汚れる。
ベランダのスペースにも限りがある。大物の洗濯は日替わりで少しずつやらなければならないし、布団も全員分は一度に干せない。
毎日まいにちまいにち、なにかしらやることがある。
「んー………」
伸びた状態で止まって、カイトは天井を見つめた。
静かだ。
マスターは仕事に出掛けた。
そしていつもはカイトの後をついて回っているがくぽとがくは、家事の邪魔だからと適当な理由をつけて、家から追い出した。
ひとりきり。
以前は珍しくなかった、この状態。
なのに。
本当なら、独り暮らしでもまったく構わないくらいに、小さくて狭いアパートの部屋――
たった一人でいたところで、広々感じることもない。
はずなのに。
やたら広くて、耳が痛いほどに静かで、空気がひどく寒々しくて。
「………なにしてる。早く帰って来い、おばかども」
自分で追い出しておいて、カイトは恨めしくつぶやいた。
我が儘だろうとなんだろうと、一人はいやだ。
普通の、日常の、なんでもないことだったのに、今はもう一人きりで過ごすこの時間が、とても嫌だ。
がくぽとがくがいたらいたできっと、『少しは大人しくしろ、おまえたち!』とかなんとか、怒っているけれど。
そっちのほうが、ずっといい。
怒って喚いて、あたふたして。
パニックを起こして、悲鳴を上げて、――
笑う。
いっしょに。
手を取り合って、抱き合って。
「………おばかども」
引きつる声で、カイトは震えながら言葉を吐き出した。
どんなに家をすっきりときれいにしても、彼らがいないのならば、意味などない。
「……っ」
ふ、と。
遠く、声――似ているけれど、少しだけ違う、二つの足音。
騒がしくアパートの外階段を昇って、部屋の前。
「…っ」
カイトはきゅ、とくちびるを噛む。
と、同時に。
「只今帰った、カイト!」
「カイト、今帰ったぞ!」
騒々しいままに扉を開いて、がくぽとがくが入って来た。
けれどカイトは床に伸びたまま、出迎えるどころか応えもしない。
そのカイトの傍らに、がくぽとがくは足音を忍ばせてそっとやって来た。
「寝ておるのか、カイト?」
「疲れたろうし――ん?」
潜めた声で言ってから黙り、がくの手がカイトの目尻に触れた。
がくぽの手がカイトの短い髪を梳いて、やわらかに頭を包む。
「なにかあったか、嫁よ」
「誰に虐められたか言ってみよ、嫁よ」
「嫁言うな」
お決まりの抗議をしながら、カイトは二人の腕を取り、ぎゅ、と抱きしめた。
「………だが、そなたは『嫁』だ」
「我らの愛しき嫁だ」
「おばかどもが」
抱きしめた腕を解かれて逆に抱きしめられ、がくぽとがくからやわらかなキスの雨が降る。
目尻を濡らしていた涙も吸われて、カイトは笑った。
二人の首に腕を回すと、自分からも抱きつく。
きつくきつくしがみつくと、ささやいた。
「僕を嫁って言うなら、一人きりで放っていくな。このだめ亭主ども」